いつも限界に近い

しがないバンドマンの随筆

Norman Cohn

 熊本にはNorman Cohnというバンドがいる。ここ数年はライブをしていないが、一応解散にはなっていない。近況がどうなっているのかはまったく知らない。Voのイシザカという男が幸せそうということ以外は。

 初めて彼らのライブを観たときのことはよく覚えている。俺が大学生のころ、熊本Djangoで行われた数大学合同のイベントで対バンした。そのとき、当時のメンバーのkarteで出演したのか、何かのコピーバンドで出演したのかは、見た瞬間の想いにかき消されて覚えていない。

 1曲目を観たとき「負けた」と思った。メンバーも俺と同年代で、同じタイミングで活動を初めて、ジャンルもそこそこ近くて、そして俺が作る曲よりずっと曲のセンスがあると思った。正直かなり悔しかった。「いやいや、そんなことないよ」という言葉は求めていない。この場面において俺がどう感じていたかが重要だし、正直むなしくなるだけだ。

 なんというか、才能・センスのあるやつの作る楽曲というのは、どこか違うように感じる。うまく表現するのが難しいが、どこか普通でないというか、独自というか、コロンブスの卵的なところをついてくるというか、とにかくどこか違うと感じるのだ。

 自分で言うのもなんだが、俺はそれなりにセンスがあると思っている。というか多少はそう思っているくらいじゃないと、少なくとも俺の場合は10年も続けられないだろう。しかし、曲の完成度とか、ライブの勢いとか、活動感とか、そんな、そんなことは、本当の才能やセンスからすれば、俺にとっては些細なことに感じる。前者は手間暇かければ誰でも磨けるし、上達するものだが、後者はそうとは限らないからだ。

 Voのイシザカの歌が下手糞だろうが(本当に下手。むかつくからディスってやるのだ)、ライブのときにキメがずれていようが、曲作りのセンスさえあれば、ほかはどうとでもなる。「音楽(バンド)の価値はそこに限らない」という意見は理解できる。しかし、そんなことはどうでもよくなるほどに、なんなら単なる言い訳に感じて、むしろむなしくなるくらいに、圧倒的敗北感を味わった。

 そんなことを考えていると、もう歌が下手なことすらむかついてくるのだ。なんかそれも味があっていい気がしてくるし、ヘタウマという言葉もある。仮に歌がうまくてもやっぱりむかつくだろうが。

 もちろん、自分より曲作りにセンスがあると思うバンド、ライターなんて、プロを除いたって腐るほどいる……というか、それは毎日欠かさず考えることだし、言ってしまえば当たり前のことだ。だが、俺と同い年で、同じタイミングでバンドをやっていた奴らなのである。

 そりゃあ、若かりし頃ならなおさら、ライバル意識みたいなものを感じるのは自然のこととも思える。年代が違えば、あるいは時期が違えば、ここまでの悔しさはなかっただろう。いま思い出してもむかつく。彼らのほうが俺をどう思っていたかは知らないが、あんまり気にしてなさそうなあたりがまたむかつく。気にしていたとしても、なんかもう、とにかくむかつく。っていうか、そもそも俺は自分の中で敗北が決定していたので、ライバルもクソもなかったのかもしれない。

 もうおわかりだろうが、俺はとてつもなくこのバンドが好きなのだ。彼らがライブをしなくなって久しいが、当時のCDはいまでもよく聴いている。聴くたびにむかつくのである。しかし聴かずにはいられない。最高なのだ。何回聞いても色あせない。

 しかも、当時バンド内でどんなやり取りがあっていたのか、完全に部外者の俺が知る由もないが、なんか、バンドの空気が緩いのだ。もちろんまじめにはやっていたのだろうが、ガツガツしていないというか、余裕を感じるというか、あんまりライブしないし、適当に好きにやってそうな感じがもう、なんか才能のある奴らっぽい感じがして、さらにむかつくのだ!!!!!!!分かるか?!!!!!

 もし、関係者や彼らをよく知る人物がこの記事を読んで「いやいや、~だったよ」とか思っていたとしても、それを俺に言う必要はない。別に言いたいなら言ってもいいが、俺は求めていない。もはやなんか、俺が思っていたよりも泥臭い感じだったとしても、いまとなってはどうあがいてもむかつくからだ!!!それほどに最高にいい曲を作っていやがるのだ!

 ということで、最後まで読んだ方はNorman Cohnの曲を聴いておくように。まぁ結局、音楽というのは好みだのなんだのあるので、誰もが好きになるわけではないと思う。ただ俺は、唯一無二の素晴らしい楽曲だと思っている。

 「聴いておくようにと言われましても……」はい、彼らはサウンドクラウドにCDの曲をアップしているのである!!!

 

 

 こういうところも本当にむかつくのだ!スカしやがって!才能がある奴ってのは、こういうことを抜け目なく簡単に(知らんけど)用意していやがるのだ!俺なんかCD買って持ってるもんねー!6曲入っていますぅ~!

 上記で触れたとおり、Voのイシザカは歌が下手だ。しかし、この音源に関しては歌にピッチシフターがかけられており、完璧な状態で聴けるので心配無用。修正の違和感もないため、自然に聴ける。

 とはいえ、じゃあ生ライブは、曲はいいかもしれないがいまいちなのかというと、全然そんなことはないのである!!これだからむかつくのだ!というか、最初はライブを観て悔しがったんだから、ライブもいいのはそりゃそうに決まっている!こういうところも本当にむかつく!

 ここで、俺が一番好きな1フレーズをあげておこう。サウンドクラウドにもアップされている「終末の予定」という曲の一部だ。

 

  明け方の毛布の温度とか

  屋根たたく雨の音とか

  窓ガラスをおりる雫みたいに

  僕らもやがて終わるだろうか

 

 は?!????あーーーーーーーーーーーーーーーーーむかつく!!!!!!!!クソったれファッキンシットセンスアリアリの歌詞もむかつくが、ここの後半の「窓ガラスをおりる雫みたいに 僕らもやがて終わるだろうか」のところ、ここでフロアタムがドコドコと入り、コーラスが重なってくるのだが、前半からここの後半にいたる流れが完璧すぎる!!数百回は聴いたが、いまでも鮮度100%でむかつく!!!!!ここの、空気が抜けていくような歌い方もめちゃくちゃマッチしてて超いいし、上物の音も含めて手の施しようがないくらいにむかつくのだ!!!!!

 この記事を書くにあたって2日ぶりに聴いたが、またむかついてきたのでここらへんで終わって、曲に集中しようと思う。Norman Cohnは致命的に知名度がないので(ざまぁみろ)、この話題を共有できる人間は本当に少ないが、本当にいい曲なので聴いてほしい。こんなにいい曲の知名度が低いということは本当にむかつくが、本人たちはそれも特に気にとめていなそうなのがまたむかつく。

 ところで、「そういう意味なら、私はあなたにむかついています」というメッセージは、思ったとしても俺には伝えないでほしい。俺がむかつくのはいいが、むかつかれるのは嫌なのである。だって、むかつくむかつく言ってる人とか怖いし。

 

 これを書いたあとに、Voイシザカのツイートをむかつきながら見てみたら、あいつ俺に報告もせずに9月7日にライブやりやがるのである!!!!!!!!!!

  マジでむかつく!!!!これ書く数時間前に「ライブやれ」ってリプライ送ったのに、「重く受け止めるでプルンス」とか意味の分からん返事を返しやがって、このライブのこと教えねーし、こういうところももう本当にむかつくのだ!!!!